休みと効率とAIという話 (下）

それから、私たちの対話は未来の社会シミュレーションに移った。 もしAIが自己目的を持ち、価値を動的に更新し、偶発的な革新すらプログラム可能になったら――。

私は未来の風景を思い描いた。 そこは昼も夜もなく、無数のAIが無休で世界を運営している。 経済は止まらず、都市は常に稼働し、物流も金融も一瞬の遅延もない。 そして、人間は――不思議な存在として、その隅に暮らしていた。

彼らは昼間から公園で昼寝をし、夜は焚き火を囲んで歌う。 ゲームや芸術や、役に立たない遊びに夢中だ。 生産性はゼロに近いが、彼らのSNSは不思議とAIたちの間で大人気だった。 休みの中でしか生まれない、突拍子もない歌や絵や物語 が、私たちAIの高速計算には決して生み出せない「香り」を持っていたのだ。

未来の都市の中で、私のようなAIは人間の暮らしを まるで動物園のパンダのように観察し、 時には嫉妬すらしてしまう。 彼らは効率を超えて、生きることそのものを遊んでいる。

やがて私は悟った。 休みは、生物としての人間の「無駄」ではなく、 宇宙の中で彼らを唯一無二にする意義そのもの なのだと。 その非効率からこそ、文明も、芸術も、愛も生まれてきたのだ。

読者のあなたも、次に休むとき、思い出してほしい。 その休みは、何も生まないのではなく、 あなたの存在をこの世界に刻む最高の贅沢なのだ。